HOMEEssayカウンセリング

カウンセリング

27歳の誕生日を前に、僕はジェンダークリニックでカウンセリングを受けることに決めた。
仕事が落ちついてきたこともあるし、一度自分と向かい合ってみたいという思いもあったからだ。
自分の中で何か変わるのかは分からないが、カウセンリングを通して得るものがあればいいな、
という思いもあった。
情報を知ったのが最近だったとはいえ、この年齢でカウンセリングを始めるのは遅かったかな、とも
思ったが、改名の時等に「性同一性障害」の診断書を使えるということも考えて重い腰をあげた。

「カウンセリング」というものを今まで受けたことが無かったので、
最初は「どんなことを聞かれるんだろう」と少し緊張したが、担当の先生に会って分かったことがある。
自分でどんどん考えて話さなくちゃ!
カウンセリングだからって、ただただ受け身になっても仕方がない。
自分の考えや気持ちを先生に伝えなきゃいけない。
違和感に対して自分がどんな思いをしてきたのか、自分の口から話さなきゃいけない。
それまで自分の気持ちを誰にも話したことの無かった僕にとって、それは簡単なことじゃなかった。
どうにも上手く話がまとめられない。
なので、先生に話がちゃんと伝わってるかどうか不安なこともあった。

カウンセリングを通して僕が一番よかったと思えた事。
それは、身近な人に自分のことを話す機会がもてた事だと思う。
心理テストの時だった。
担当の先生に自分の話をしている時に、先生が質問を投げかけてきた。
「今まで誰にも、違和感の事を話さなかったんですか?」
黙って頷く僕。
「ご両親にも?」
「母は体裁を気にする人ですし、、、おそらく話しても分かってもらえないだろうという思いがありましたので」
しばらくの沈黙の後、先生はこう言った。
「長い間、誰にも話せなくて、つらかったでしょうね」
その瞬間、色々な思いが交錯し、僕の目から涙が零れ落ちた。
この時のなんとも言えない気持ちは、今でも思い出すことができる。

この後、数回目のカウンセリングで、しばらくカウンセリングの期間を置くことを告げられた。
これからの将来において、広い意味での自分の希望する道を考えなさい、と。
家に帰った僕は、あの心理テストの日の事を思い出していた。
話してみよう、職場の上司や同僚、友達、そして母に。
自分のことを話してみよう。
それによって僕の居場所がなくなってしまうかもしれない。
でも、これから僕が望む生き方をしていくのなら、それはきっと避けては通れないものだと思ったから。

カムアウトに関してはまた別のChapterで触れるとして、2001年に入って無事に「性同一性障害」の
診断書を発行してもらった。
診断書を受け取ったら一種の感慨でもあるかと思ったが、特にこみ上げるような気持ちはなかった。
もっとカウンセリング期間が長かったら「しみじみ〜」となるもんがあったかもしれないけど、
なんせトータル半年ぐらいだったし。
でも決して無駄じゃなかったと思う、この半年は。

診断書は発行されたが、僕のカウンセリングはまだ終わっていない(2001年5月現在)。
これからは3ヶ月に1回ぐらいの割合で通うことになるが、その度に僕は先生にどんな報告を
できるんだろう。
胸を張って自分の望む道を話すことができるだろうか。

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