初めて履歴書を書いたとき、性別欄に丸をつけるのがイヤだった。
イヤだったというより、「これはどうしても女に丸をつけなきゃいけないのかな?」という気持ちになった。
それでもアルバイトをしていた時は、仕方なく「女」に丸をつけて企業に提出していた。
初めての就職の時もそう。
どうせ保険加入の時にバれるんだから、と無理矢理に自分を納得させていた。
PCインストラクター時代にカウンセリングに通い、男性ホルモン投与を始めた。
そのPCインストラクターを辞めてから、次の職場に提出する履歴書を前にかなり悩んだ。
ネットで雇用条件が良さそうな求人情報を探し、企業に応募メールを送る際に
「自分は性同一性障害である」ということと、改名がまだだったので「通称名を使わせてほしい」という
ことを記載した。
ほとんどの会社は快い返事をくれたが、いくつかの会社は難色を示していた。
ただ、快く返事をくれた会社でも面接とは別に、何度かにわたって雇用担当者との面談があった。
会社側としては、僕のような性同一性障害者を雇用した前例がないので、どう対応していいのか
分かりかねることがあるのだろう。
そのための打ち合わせが何度もおこなわれる。
実際に仕事を始めるまでに、余計な日にちがかかってしまうわけだ。
正直、こんなのが何度も続くとゲンナリしてくる。
改名が無事に終わり、また仕事を探すときに「保険加入さえしなければ、いちいち説明せずに
応募できるんじゃないだろうか」、そう思って短期の仕事を扱う派遣会社で求人情報を探した。
それからの履歴書の性別欄はすべて「男」に丸をつけて提出した。
受付時に「本当に男性ですか?」と問われることもなく、職場でも男性社員に混じって働いた。
そして、派遣会社からの紹介案件が途切れた際に、前のPCスクールから「戻ってきてほしい」という
要望があったので、またしばらく以前の会社で口を糊することになった。
前の職場であれば自分を説明する手間ははぶけるわけだし、あの質問攻めの面談も無い。
しかし、僕も年齢が年齢なので「いつまでもこんな身分(PCスクールでの扱いは「非常勤社員」)じゃ
イカンな」と思い、正社員での雇用をもう一度考えることにした。
頭によぎるのは、雇用担当者との幾度にもわたる面談。
ひょっとすると「うちは女性はいらなかったんですよ」「我が社では受け入れ体制が
整っていませんので」等と言われるんじゃないかとか、悪い方向に考えがよぎる。
このまま楽な職場にいれば、そんなこと考えなくてすむ。
「ウリになるようなスキルでも持っていればなぁ」と後悔した。
若い人は勉強できるうちに、売りになるスキルや資格を身につけておいた方がいいと思う。
それでも結局僕はPCスクールを出て、今度は正社員の求人情報を探し出した。
面接時には自分の戸籍の性別は言わないつもり。
履歴書の性別は「男」に丸をつける。
もし何らかの形で戸籍の性別が分かった時に、結果がどう転ぼうとかまわない。
自分の仕事っぷりを見てくれる企業で働きたいと思っている。